この記事で整理すること

  • 温泉の利用許可だけ、譲渡では引き継げない
  • 掲示と成分分析には、10年と30日という期限がある
  • 入湯税は入湯客から預かる。納めなければ罰則がある

許可は一つではない。引き継ぎ方も別々に決まっている

まず旅館業法3条1項により、旅館業を営もうとする者は都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長または区長)の許可を受けます。種別は旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の三つです(同法2条)。これとは別に、温泉法15条1項が、温泉を公共の浴用または飲用に供しようとする者は都道府県知事の許可を受けなければならないと定めています。温泉法施行令2条により、保健所を設置する市の長や特別区の長がこの事務を行う地域もあります。浴場の側では、公衆浴場法2条1項が、業として公衆浴場を経営しようとする者に都道府県知事の許可を求めています。日帰り入浴のように宿泊者以外を入れるかどうかで、この許可が要るかが変わります。所管に聞きます。

自分で汲み上げているなら、その手前に許可があります。温泉法3条1項は掘削の許可、11条1項はゆう出路の増掘または動力の装置の許可です。さらに14条の2第1項が、温泉源からの温泉の採取を業として行おうとする者に、採取の場所ごとの許可を求めています(14条の5第1項の確認を受けた場合を除きます)。宿を引き継ぐときは、これらが誰の名義になっているかを一件ずつ確かめます。

引き継ぎ方は、法律ごとに違います。旅館業法3条の2は、営業者が旅館業を譲渡する場合に、譲渡人と譲受人が都道府県知事の承認を受けたときに譲受人が地位を承継するとしています。合併・分割は3条の3、相続は3条の4で、相続は死亡後60日以内の申請です。公衆浴場法2条の2も、譲渡・相続・合併・分割で営業者の地位を承継し、承継した者は遅滞なく届け出るとしています。

ところが温泉法15条の利用許可には、譲渡で承継するという条文がありません。あるのは16条(法人の合併、または事業の全部を承継させる分割で知事の承認を受けたとき)と、17条(相続人が死亡後60日以内に申請して承認を受けたとき)だけです。譲渡で承継できるのは、14条の6の採取の確認を受けた者の地位に限られます。つまり、宿を譲り受ける形だと、旅館業と浴場業は承認や届出で引き継げても、温泉の利用許可は取り直しになる可能性があります。許可のないまま温泉を浴用に供すれば、罰則があります(温泉法39条5号)。旅館業の無許可営業も同じです(旅館業法10条)。契約の形を決める前に、三つの許可を一つずつ所管に確かめてください。

掲示は、書く内容と書き直す期限が決まっている

温泉法18条1項は、温泉を公共の浴用または飲用に供する者に、施設内の見やすい場所への掲示を義務づけています。掲示する事項は温泉法施行規則10条1項に並んでいます。源泉名。泉質。源泉と、浴用・飲用に供する場所の温度。成分と、その分析年月日。登録分析機関の名称と登録番号。禁忌症。浴用または飲用の方法と注意。これに加えて、同じ規則10条2項の事項も掲示します。

規則10条2項では、お湯の扱い方そのものを書きます。温泉に水を加えて公共の浴用に供する場合、加温して供する場合、循環させて供する場合(ろ過を実施しているならその旨を含む)は、その旨と理由です。入浴剤を加え、または消毒して供する場合は、当該入浴剤の名称または消毒の方法と、その理由を書きます。ここでいう入浴剤は、着色・着香または入浴の効果を高める目的で加える物質です。ゆずや菖蒲のように、入浴する人が見て分かるものは除かれます。「消毒しています」だけでは足りず、方法を書くことになります。加温をやめた、ろ過を入れた、といった運用の変更は、そのまま掲示の書き換えにつながります。

期限は二つです。温泉法18条3項は、政令で定める期間ごとに温泉成分分析を受け、その結果についての通知を受けた日から起算して30日以内に、掲示の内容を変更しなければならないとしています。この期間は、温泉法施行令1条で、前回の温泉成分分析を受けた日から10年以内と定められています。起点は、前回の分析日です。環境省の「温泉法の概要」も、掲示は登録分析機関の行う温泉成分分析の結果に基づくことが必要で、10年に一度の定期的な分析を要すると案内しています。

掲示の前にも手続きがあります。同条4項は、掲示をし、またはその内容を変更しようとするときは、あらかじめその内容を都道府県知事に届け出なければならないとしています。温泉法41条は、掲示をせずまたは虚偽の掲示をした者、届出をせずまたは虚偽の届出をした者、分析を受けず掲示の内容を変更しなかった者などを30万円以下の罰金としています。次の分析期限と、直近の届出日を、宿の年間予定に書き込んでおきます。

浴槽の衛生は、国の要領と地元の条例を分けて読む

浴場の衛生の根拠は、誰を入れるかで変わります。宿泊者以外も入れる公衆浴場なら、公衆浴場法3条1項が、換気、採光、照明、保温および清潔その他入浴者の衛生および風紀に必要な措置を営業者に求め、2項でその基準は都道府県が条例で定めるとしています。宿泊者専用なら、旅館業法4条が同じ形です。1項が換気、採光、照明、防湿および清潔その他宿泊者の衛生に必要な措置を求め、2項でその基準を都道府県の条例に委ねています。どちらにしても、実際に守る数値は所在地の条例で決まります。

国の目安は、厚生労働省の「公衆浴場における衛生等管理要領等について」(平成12年12月15日生衛発第1811号。令和5年11月15日健生発1115第5号まで一部改正)にまとまっています。宿が見るのは、別添1の水質基準と、別添3の旅館業の管理要領です。浴槽水の水質基準では、レジオネラ属菌が検出されないこととされています(10cfu/100mL未満)。浴槽は毎日、完全に換水して清掃します。それが難しい場合でも、1週間に1回以上は完全に換水して清掃することとされています。ろ過器は1週間に1回以上、十分に逆洗浄して汚れを排出し、ろ過器と循環配管の生物膜を適切な消毒方法で除去します。

消毒は、濃度まで決まっています。浴槽水の消毒にあたっては塩素系薬剤を使用し、遊離残留塩素濃度を頻繁に測定して0.4mg/L程度を保ち、かつ最大1mg/Lを超えないよう努めること、測定結果は検査の日から3年間保管することとされています。モノクロラミンを使う場合は3mg/L程度です。原水や原湯の性質で塩素系薬剤が使えない場合、pHが高く効果が減弱する場合、オゾン殺菌等の他の方法を使う場合は、適切な衛生措置を併せ行うのであればこの限りではないとされています。低pHの泉質では有毒な塩素ガスが発生することがあるとも書かれており、その場合は毎日完全に換水し、浴槽・ろ過器・循環配管を十分に清掃・消毒する形が示されています。泉質によって、手順が変わります。自分の湯のやり方は、保健所と決めます。

温泉水の例外も、範囲が決まっています。別添1の但し書きで外せるのは、浴槽水の濁度と有機物の基準だけです。大腸菌群とレジオネラ属菌は外せません。水質検査の頻度は、ろ過器を使用していない浴槽水および毎日完全に換水している浴槽水は1年に1回以上、連日使用している浴槽水は1年に2回以上(浴槽水の消毒が塩素消毒でない場合は1年に4回以上)です。

ここで決まるのは、毎日の作業と毎週の作業です。換水、逆洗浄、測定と記録に誰が何時間かけるかが、人の配置と燃料の予定に直結します。季節や食事、設備と合わせた組み立ては、「旅館の経営計画を作る。季節・食事・設備を一枚につなぐ」で扱っています。

入湯税は売上ではなく、預かって納めるお金

入湯税を課すのは、温泉のある市町村です。地方税法701条は、課される相手を入湯客としています。使い道も条文に書かれていて、環境衛生施設の整備、鉱泉源の保護管理施設の整備、消防施設その他消防活動に必要な施設の整備、それに観光の振興です。条文の言葉は「鉱泉浴場」です。総務省のページも、課税団体は鉱泉浴場のある市町村、課税客体は入湯行為という同じ整理です。

税率は、地方税法701条の2が入湯客一人一日について150円を標準とするものとしています。標準であって実額ではありません。実際の税率や、日帰り・年少者などの課税免除、納期は市町村の条例で決まるので、所在地の条例を見ます。

入湯税は、特別徴収で集めます(701条の3)。市町村は条例で、浴場の経営者などを特別徴収義務者に指定します(701条の4第1項)。宿は、集める側として名指しされます。同条2項により、条例で定める納期限までに納入申告書を提出し、納入金を市町村に納入する義務を負います。3項では、納税者が支払わなかった税金に相当する部分について、特別徴収義務者は納税者に対して求償権を有するとされています。受け取り損ねても、納める義務は消えません。お客様に請求する権利が残るだけです。

預り金として分けて記録する理由は、ここにあります。徴収して納入すべき税が未納のままだと、罰則があります(地方税法701条の7)。条文の見出しは「入湯税の脱税に関する罪」です。宿の都合で遅らせられるお金ではありません。宿泊料金と一緒に受け取っても、帳簿の置き場所は別です。宿を引き継ぐ場合は、未納分がないかも確認対象になります。税額や申告の書き方は、所在地の市町村の窓口か税理士に確認してください。

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